きいろいちゅーりっぷ

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【感想】「バターサンドの夜に」(河合二湖・作)を読んで

児童書を読むのは久しぶり。秋なので、食べもの関連を読もうと、タイトルの「バターサンド」だけで手に取った割に、今の季節にちょうどよい内容だった。

 

作者あとがきから読んだからか、作者の過去を追体験しているかのように、リアルで美しい文章だった。主人公は中学生の女の子。他人に興味はなく、唯一尊敬しているのは、祖父だけだった。「人との距離の取り方」が似ているのだという。

中学生と言えば、クラスのカースト制はどこにでもあるものだろう。彼女が属するグループは、他からあぶれた3人組だった。共通点はどこにもなく、互いに好きな物の話を自分勝手に言い合うだけ。けれど主人公は、好きなものについて話さず、心の中に閉まっておきたいと思っていた。

 

物語は、つぶれかかった洋裁店の女性が、主人公に「モデルにならないか」と誘ったことをきっかけに動き出す。川辺でカフェオレ色のワンピースに、学校指定の白いスニーカーという格好で撮影する場面が、私のお気に入りとなった。見たことはないけど、文章でおしゃれでかわいい雰囲気であることが分かる。

そうなのだ。この本は、想像させる力が強い。比喩表現がそこここにちらばり、風景の描写は、主人公の心理を表す。

 

「川」は洋裁店の女性を表し、タイトルにある「バターサンド」は共通点などないと思っていた友人と唯一、重なった点で、人との関わりを意味している。心も体もどうしても変化してしまう思春期の物語。子どもたちに勧めるには、直接的な表現もあったが、小説としての美しい部分に触れるにはちょうど良い作品だと思った。

 

また、頃合いを見て読みたいと思う。