きいろいちゅーりっぷ

日々の細々を書きます。

思い出の場所、と言うと大抵の人が、家族みんなで度々行った遊園地だとか、夫からプロポーズされた夜景の見えるレストランだとか、特定の場所があると思う。

私もそれで言うなら、家族で一度だけ訪れた金沢のホテルや、恋人と初めて出会ったデパートの出入り口とかいろいろあるけれど、そこから漏れてしまった「場所」の話をここではしたい。

 

そこは、新卒で務めた会社の入っているビルのトイレである。

私の会社は4階にあり、トイレは1階だった。本当は、4階にもトイレはあるにはあるのだが、そちらは使ったことがなかった。ただの一度も。

なぜか。

1階のほうがきれいだとか、広いとかそういった理由ではない。

職場と離れたところにいたかったのだ。

お昼休みは、そこで過ごすことも多かった。

想像できるだろうか。新卒の女がコンビニで買った弁当をトイレで食べる姿を。

 

いじめられていたわけではなかったが、いじめはあった。

私ではなく、私より2つほど年上の男性社員だった。

彼は背を丸め、声が小さく、よく私の先輩である女性社員から、「え???」「聞こえないよ???」と怒られていた。

小さな会社で、その男性社員以外は所長だけであとはみんな女性だった。

2~3人で、まとまって陰口を言って、特に私によくしてくれる先輩の明るくてはきはきとした口調は、その時ばかりは神経質で甲高く、魔女のように感じた。

その先輩が悪いわけでもなかったし、男性社員にも悪いところがあった(業績を上げるためにズルをしていた)ので、本当はいじめではないのかもしれない。

でも、私はなぜだか傷ついていた。

 

新卒で、怒られてばかりの毎日で、疲弊し、自己肯定感も下がっていたからかもしれない。怒られてはいても、褒めてくれることもあったのだから、誰も悪くないのだ。

でも、そんな体調だったから、ささやくようなひそひそ声を昼休みまで聞きたくない、とランチは弁当派だったが、外に出ることにした。

 

そして、知った。

1時間もないランチタイムを外で食べることの難しさを。

1食800円以上のレストラン街しかなく、そこへ行くにも徒歩では10分以上かかる。

お昼時だから、混雑しているし、料理が出てくるまでも時間はとられる。

そこにいたくない一心で、レストランに通ったが食費が馬鹿みたいになって、じゃあ食べなくていいやと思えど、腹は鳴る。

 

そこでコンビニで買った弁当を、1階のトイレで食べてみた。

最初はその状況に笑えた。

漫画みたいだなと。

でも、何回目かで、誰かが入ってくると、身体は硬直し、「ばれたらどうしよう」と不安になってくる。そもそもが迷惑行為でしかないのだし。

 

実際、そんなことが重なったから、トイレ弁当はたったの数回にしか満たない。

 

みじめで、悲しくて、道端で泣いたこともあった。

たかがこんなことで、と思う人もいるだろう。

私もそう思う。今なら。

でも、当時は本当にきつかった。

何がきつかったのか、分からないけれど、分からないままに、あいまいにしている自分もいる。

 

トイレで何を食べていたのかは、もう思い出せないが、その会社のビルを見るたびに、働いてつらいなと感じるたびに、私の頭にはそのトイレで食べた風景が思い出される。